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セキュリティ

ゼロトラストは製品ではなく設計思想である

2026/04/08

1. 「社内ネットワークだから安全」という前提の崩壊

境界防御モデルは、社内ネットワークの内側にいることそのものを信頼の根拠にしてきた。しかしリモートワークとクラウド利用が前提になった環境では、この境界線自体が意味を失っている。

2. 「ゼロトラスト」の出典を確認する — NIST SP 800-207の7原則

「ゼロトラスト」という言葉は、しばしばマーケティング用語として曖昧に使われがちだが、実は米国国立標準技術研究所(NIST)が2020年に公表した文書「SP 800-207」で、比較的明確に定義されている。同文書は、ゼロトラストアーキテクチャが満たすべき原則として、次の7項目を挙げている。

  1. すべてのデータソースと計算サービスをリソースとみなす
  2. すべての通信は、ネットワーク上の位置に関係なく保護する
  3. 個々のリソースへのアクセスは、セッション単位で許可する
  4. アクセス可否は、クライアントの身元・アプリケーション・要求元資産の状態などを含む動的なポリシーによって決定する
  5. すべての保有資産・関連資産の完全性とセキュリティ状態を、組織が継続的に監視・測定する
  6. すべてのリソース認証・認可は動的であり、アクセスが許可される前に厳格に強制する
  7. 資産・ネットワークインフラ・通信の状態について可能な限り多くの情報を収集し、セキュリティ体制の改善に用いる

こうして原則を並べてみると分かるように、ゼロトラストは「特定の製品を導入すれば達成される」性質のものではなく、アクセス制御の判断基準そのものを、静的な境界(社内か社外か)から動的な検証(このリクエストは今、信頼できる状態か)へと移行させるという、設計思想レベルの転換を要求している。

3. ゼロトラストが要求する3つの転換

  1. すべてのリクエストを検証する: 社内・社外を問わず、すべてのアクセスに対して認証・認可を毎回行う(NISTの原則2・3に対応)
  2. 最小権限を徹底する: 一度付与した権限を長期間そのままにせず、必要な範囲・期間に限定する(原則4に対応)
  3. 前提を「侵害されている」に置く: 侵入を完全に防ぐことを目指すのではなく、侵害を前提にした継続的な監視と封じ込めの設計にする(原則5・7に対応)

4. 製品導入で終わらせないために

ゼロトラスト対応をうたう製品を導入しても、既存のネットワーク設計や権限管理の運用を変えなければ実質的には何も変わらない。NISTの7原則が示す通り、重要なのは製品の選定ではなく、「何を信頼の根拠にするか」という設計思想そのものを組織内で転換することである。自社のセキュリティ施策が「ゼロトラスト」を名乗る前に、この7原則のうちどれを実際に満たしているかを、製品カタログではなく自社のアクセス制御の実装に照らして確認してみることが、実務上の健全な出発点になる。