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セキュリティ

パスキー移行の現実 — パスワードレスは本当に楽になるのか、実数値で見る

2026/07/07

1. パスキーが解決すること、しないこと

パスキーはフィッシング耐性を持ち、パスワードの使い回しという最大のリスクを構造的に排除する。一方で、デバイスの紛失・機種変更時の復旧フロー、複数デバイス間の同期、パスキー非対応のレガシーシステムとの共存など、運用面の課題は残ったままだ。

2. 実数値で見る普及状況

2026年5月にFIDO Allianceが公表した調査データによれば、世界で利用されているパスキーの数は約50億個に達しているという。消費者側の意識も進んでおり、パスキーの認知度は90%に達し、75%が少なくとも1つのアカウントでパスキーを有効化し、49%が利用可能な場面で日常的にパスキーを使っていると報告されている。企業側でも、68%の組織が従業員向けサインインにパスキーを導入済み、または導入を進めているという。

性能面の効果も具体的な数字で示されている。 Googleの報告によれば、パスキーによるサインインはパスワードに比べて約4倍成功しやすく、ログイン成功率はパスキーが約93%であるのに対し、従来型のパスワード認証は約63%にとどまるという。パスキーを導入した組織では、平均してサインインにかかる時間が73%短縮され、ログイン関連のサポート問い合わせが81%削減されたという運用上の効果も報告されている。

3. 移行でつまずきやすい点

  • アカウント復旧: パスキーを失った際の本人確認手段を、パスワードと同等以上のセキュリティ水準で用意する必要がある
  • エンタープライズ環境: 社給デバイスの入れ替えサイクルと、パスキーの端末紐付けがかみ合わないケースがある
  • 段階的移行: 全ユーザーを一斉に移行させることは現実的でなく、パスワードとの併用期間をどう設計するかが問われる。実際、上位100サイトのうちパスキーに対応しているのは48%にとどまっており(2022年の2倍以上とはいえ)、パスワードとの併用が前提の移行期はまだ長く続くとみられる

4. 結論

パスキーは「導入すれば終わり」の機能ではなく、復旧フローと移行期間の設計そのものが本体である。この設計を怠ったまま導入すると、利便性向上どころかサポート問い合わせの急増という形で跳ね返ってくる。一方で、上記の実数値が示すように、設計をきちんと行えば、ログイン成功率の向上とサポート負荷の削減という形で、投資に見合う効果が得られる可能性は高い。重要なのは、「パスキーに対応しました」で終わらせず、復旧フローの設計と移行期間の運用計画まで含めて、導入プロジェクトの範囲として最初から見積もっておくことだ。