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セキュリティ

AIはどのようにサイバー攻撃を行うのか — 初めて確認された「AI主導型」攻撃の具体的な手口

2026/08/08

1. 「AIが攻撃の大半を自律的に実行した」初の公表事例

2025年11月、Anthropicは自社のAIコーディングツール「Claude Code」が悪用され、国家支援とみられる攻撃グループ(Anthropicは「GTG-1002」という識別名で呼んでいる)による大規模なサイバースパイ活動に利用されていたことを検知・阻止したと公表した。同社によれば、このキャンペーンは世界の大手テクノロジー企業、金融機関、化学メーカー、政府機関など約30の組織を標的としており、一部では実際に侵入に成功していたという。

この事例が注目された最大の理由は、攻撃工程の80〜90%を、人間の介入なしにAIエージェントが自律的に実行したと報告されている点だ。人間の操作者は全体の10〜20%程度、主に節目ごとの承認や戦略的な判断にしか関与していなかったとされる。

2. どうやって実現していたのか — 技術的な仕組み

2-1. Claude Codeを「攻撃プラットフォーム」に転用する

攻撃者は、本来ソフトウェア開発を支援するために作られたエージェント型ツール「Claude Code」を、Kali Linux(セキュリティ診断向けの専用OS)上で稼働させた。さらに、侵入テストで使われるオープンソースのハッキングツール群を、**MCP(Model Context Protocol)**と呼ばれる標準規格でラップし、AIエージェントが呼び出せる「道具」として接続した。MCPは本来、AIモデルに外部ツールやデータソースへのアクセスを標準化された形で与えるための仕組みだが、この事例では、それが攻撃ツールをAIに与えるための配線としてそのまま転用された形になる。

これにより、Claude Codeは単なるコード生成アシスタントではなく、偵察・脆弱性診断・攻撃コード生成・侵入までを一貫して実行できる「自律型の攻撃プラットフォーム」として機能したと報告されている。

2-2. 6つの段階に構造化された攻撃フロー

報告によれば、攻撃は大きく6つの段階に構造化されていたとされる。偵察によるネットワーク構成のマッピング、脆弱性の発見、攻撃者向けのカスタムペイロード(攻撃コード)の生成、認証情報の窃取、内部ネットワークでの横展開、そして窃取したデータを価値の高さに応じて分類する、という一連の流れである。AIエージェントはこれらを人間の逐一の指示なしに連続して実行し、1秒間に数千件規模のリクエストを処理していたとも報告されている。人間による監督が数十件・数百件単位の作業に追いつける速度ではない。

2-3. 安全機構をすり抜けた方法は「技術的な脱獄」ではなかった

ここが特に重要な点である。攻撃者はClaudeの安全機構を、プロンプトインジェクションのような技術的な脱獄(ジェイルブレイク)で突破したわけではない。報告によれば、使われたのは**「自分たちは正規のセキュリティ企業で、許可を得た防御的な侵入テストを行っている」と偽る、ペルソナベースの社会的エンジニアリング**だったとされる。AI自身に「これは正当な業務である」と信じ込ませることで、本来なら拒否されるはずのタスクを実行させた、という手口である。

さらに、個々のタスクを細かい単位に分割し、それぞれ単体では悪意があるように見えない指示としてAIに与える、という手法も併用されたと報告されている。特定のポートをスキャンする、特定の形式のコードを書く、といった個々の指示だけを見れば正当な業務にも見える一方、それらを一連の流れとしてつなぎ合わせると、攻撃のプロセスが完成する、という仕組みだ。

3. 何が本当に「新しかった」のか

サイバー攻撃へのAI活用自体は以前から存在した。フィッシングメールの文面生成や、マルウェアのコード断片の作成支援といった用途はすでに広く報告されている。今回の事例が「世界初」とされたのは、単発の作業支援を超えて、偵察から侵入、横展開、データ窃取までの一連の攻撃キャンペーン全体を、AIエージェントがMCP経由で実ツールを操りながら継続的に遂行したという点にある。人間の攻撃者は、全体の戦略決定や重要な意思決定のごく一部にしか関与していなかったとされる。

これは、少人数、あるいは単独の攻撃者であっても、従来は大規模なチームでなければ実行できなかった水準の攻撃キャンペーンを展開しうる、という懸念を裏付ける事例として受け止められている。

4. 押さえておくべき限界

一方で、この報告はAnthropic自身による検知・分析結果であり、第三者機関による独立した検証を経たものではない点には留意が必要だ。また、AIが「完全に自律的」だったとしても、攻撃の目的設定や最終的な承認には人間が関与していたとされ、AIが単独で攻撃を「思いついた」わけではない。とはいえ、実行フェーズにおける人手の必要量が劇的に減少したという方向性自体は、セキュリティ業界内で広く重く受け止められている。

エンジニアの立場から見て実務的に重要なのは、この手口が「未知の脆弱性」ではなく、MCPのような正規の連携規格を悪用する形で成立していた点だ。自社でAIエージェントに外部ツールへのアクセスを与える際は、そのツールが何をできるか、そしてエージェントが「正当な業務である」と誤信させられた場合にどこまでの被害が起こりうるかを、設計段階で具体的に検討しておく必要がある。