セキュリティ
ルールを知ることがハッカーの出発点——Microsoft ResearchのMike Walkerが語るサイバーセキュリティとAIのキャリア
2026/11/04
「ルールを理解することが、やりたいことをやるための前提だ」
Microsoft Research(MSR)のリサーチマネージャーであるMike Walkerは、同社のポッドキャスト「Microsoft Research Podcast」に登場し、ハッカー文化を起点としたキャリアの歩みと、サイバーセキュリティおよびAI研究から得た知見を語った。インタビュアーはMSRのプリンシパルテクニカルプログラムマネージャー、Weishung Liuが務めた。
オハイオ州コロンバスで育った「本の虫」
Walkerは米国オハイオ州コロンバス出身。幼少期は本を読み、スケートボードやバスケットボールに親しみながら、夏になるとバージニア州タパハノックの農場で過ごしたという。父親が自宅に工業用機器——ヘリウムネオンレーザーや高電圧電源装置など——を持ち帰り、「これで何か作ってみろ」と言い残していく環境が、物事の仕組みへの好奇心を育てたとWalkerは振り返る。Apple IIとの出会いも同時期のことで、コンピュータを身の回りのあらゆるものに接続しようとしていたと話す。
インターネット以前の時代には、ダイヤルアップモデムで接続するBBS(掲示板システム)を運営。各BBS が独立した「小さな宇宙」として存在していた時代に、ネットワーク上のセキュリティの抜け穴に気づいていたという。たとえばブロードキャストLAN上のバッジスワイプ(入館認証)イベントを傍受・再生することで任意の建物に入れてしまう問題を周囲に指摘しても、当時は「やらなければいいだけだ」と一笑に付されるだけだったと語る。
その後、ネットワーク上のコンピュータにルールを適用することが社会的に重要視されるようになり、そうした問題に取り組む人材の需要が生まれたとき、Walkerは「自分は最初からここにいたが、ようやく名前がついた」と感じたという。
ルールは社会的構築物——信頼を消費しすぎてはいけない
Walkerがこのポッドキャストを通じて繰り返し強調するのが「ルール」への独自の向き合い方だ。
「ルールを理解していなければ、自分のやりたいことはできない」と彼は述べる。ただし、ルールとは社会的な構築物であるという認識が重要だとも主張する。セキュリティシステムがユーザーに何かを求めるたびに、それはユーザーの「信頼」を消費していることになる。信頼は希少な資源であり、それを浪費すれば「セキュリティの枠組み全体が崩れ落ちる」というのがWalkerの見立てだ。ルールを即座に適用するだけでなく、その社会的文脈を理解することこそが重要だと語る。
インタビューでは「No Vehicles in the Park(公園内の車両禁止)」というルールをテーマにしたゲームも話題に上り、ルールの適用が状況によっていかに複雑になるかを示す思考実験として紹介された。
DARPAのサイバーグランドチャレンジ——史上初の「全自動ハッキング大会」
Microsoft入社以前、WalkerはDARPA(国防高等研究計画局)で**Cyber Grand Challenge(CGC)**を主導した。このプログラムは、ソフトウェアの脆弱性を自律的に発見・修正できるAIシステムを実証した先駆的な取り組みとして知られる。なお、ポッドキャスト内でLiuは「CGCは2026年に10周年を迎えた」と述べており、このエピソードが2026年に収録されたことがうかがえる。
MSRでは現在、AI・サイバーセキュリティ・大規模分散システムの交差領域でプロジェクトを率いており、クラウドネイティブなメモリ解析、自動化されたマルウェア解析、次世代サイバー防衛技術などの研究に従事していると紹介されている。
競技ハッキングが教えたチームワークと集合知
Walkerはまた、競技としてのハッキングがチームワークや集合知について多くを教えてくれたとも語っている。個人の技術力だけでなく、チームとして協調しながら問題に取り組む姿勢が、現在の研究活動やリーダーシップにも活きているという。
さらに超長距離自転車レース(ウルトラエンデュランスレーシング)にも挑戦していることが明かされており、移動手段としての自転車の限界を探求するこの趣味もまた、困難な問題を追い求めるWalkerの姿勢を象徴しているように映る。
今日のネットワークは10年前より安全になったか
ポッドキャストでは「今日のネットワークシステムは10年前より安全になっているか」という問いも投げかけられているが、詳細な議論はポッドキャスト本編で展開されている。Walkerのキャリアと思想の全体像は、Apple Podcasts・Spotify・RSSフィードなど各種プラットフォームで配信中のMicrosoft Research Podcastで聴くことができる。