MAYU
生成AI導入をめぐる、ある会社のものがたり。全10話、連載中。
第1話 AIは答えを知らない
杉本由奈がMAYUで作った提案資料に、もっともらしい誤情報が含まれていた。高瀬結は、単なる利用ミスとして処理せず、同じ質問を繰り返して回答の変化を調べる。大庭達郎は、生成AIが真実を検索して答えているのではなく、文脈から次の言葉を予測していることを説明する。
第2話 その言葉はどこから来た
杉本由奈は結を待たず、言い回しや会話の長さを変えながら同じ質問を試し続ける。高瀬結が合流して検証条件を一つずつに絞り込むと、古い用語が出る・出ない条件にばらつきが見えてくる。大庭達郎は、回答が学習済み知識・プロンプトの指示・会話のコンテキスト・外部参照のどれに由来するかは文章だけでは切り分けられないと整理し、二人はより広いログ調査のため宮原佳奈子に正式な依頼を申し出る。
第3話 会社の記憶
佳奈子の許可が下り、高瀬結と杉本由奈はMAYUの参照ログを開く。由奈が言い回しを変えて質問しても、MAYUは同じ社内資料を探し当ててくる。大庭達郎は、AIの検索が「同じ言葉」ではなく、文章を数値の並び(ベクトル)に変えた「意味の近さ」で資料を探していること——埋め込み、ベクトル検索、そしてRAGの仕組みを解き明かす。だが探される側の索引を眺めていた結は、今の会社のどこも使っていない、見慣れない形式の資料が一行紛れ込んでいるのに気づく。
第4話 見せてはいけない答え
杉本由奈は、MAYUの回答に自分が閲覧できないはずの社内情報が混ざっていることに気づき、利用を止める。経営からAI利用の継続を問われる中、大庭達郎は「意味が近い資料を探すこと」と「その資料を見せてよいか」は別の問題だと説明する。宮原佳奈子が提案するのは、検索前のアクセス制御と、誰がいつ何を参照したかを残す監査ログ。安全に使い続けるために過去の記録を調べるうち、佳奈子自身が残した古い記録に行き当たる。
第5話 正しさを測るものさし
安全対策を施したMAYUに、使いにくくなったという声が上がる。現場・技術・ガバナンスで異なる判断を揃えるため、高瀬結たちは代表的な質問と過去の失敗例を集め、共通の合格基準で繰り返し確かめる「Evals」を作り始める。機械的な正解だけでは測れない答えには、人の目も必要だった。そんな中、杉本由奈が古い資料から見つけたのは、1998年の評価記録だった。
第6話 偏りのないデータはない
MAYUの提案が、いつもフルタイムで出社する正社員中心の会社を前提にしていることに、杉本由奈が気づく。大庭達郎は、データの偏りと代表性、誰が不利益を受けるかを確かめる公平性の検証を説明する。高瀬結たちは働き方や会社の規模を変えた質問をEvalsに加え、見逃していた偏りを探り始める。提案テンプレートの更新履歴を遡ると、そこには昔の「普通」が残り続けていた。
第7話 AIに任せる境界線
MAYUの提案を手でシステムに反映する手間を減らしたいと、杉本由奈が自動化を提案する。第4話の出来事を踏まえて宮原佳奈子が懸念を示す中、大庭達郎はAIエージェントとツール実行の仕組みを説明する。高瀬結たちは、取り返しのつく作業と実行前に人の確認が必要な作業を分け、Human-in-the-loopの境界線を設計する。そんな中、1998年の資料から未完成の自動処理構想が見つかる。
第8話 インターネットの次
高瀬結は、これまでの取り組みと、モデル更新のたびのEvals再実行や索引の保守、異動に伴うアクセス制御の見直しといった継続的な運用の手間を戸沢正臣に報告する。戸沢は、投資を続ける価値があるのかを問う。大庭達郎は、インターネットが商用化され始めた頃、仕事に求められる水準そのものが上がり、対応した会社とそうでない会社に差がついた経験を語る。「安全になった」ではなく「安全に使い続けるやり方が分かってきた」と答える結に、戸沢は投資の継続を決める。会議の後、戸沢と大庭は識別子「MAYU_1998」に、言葉にできない引っかかりを覚える。